「親の介護、もう無理」
そう思ってしまうのは、あなたが冷たいからではありません。
ここまで、ずっと頑張ってこられたからです。
私も、認知症の母を在宅で介護していたころ、同じことを思いました。
そして実際に、荷物を持って家を飛び出した夜があります。
ただ、正直にお伝えします。
家を出ても、私の気持ちが楽になったわけではありませんでした。
この記事では、あのころの私が何を思っていたのかと、いま同じ場所にいる方が今日できることを3つに絞ってお伝えします。
読み終えたときに、ひとりで抱え込まなくていいのだと感じてもらえたら嬉しいです。
この記事でわかること
- 「もう無理」と思うのが、自然なことである理由
- ひとりで抱えないほうがいいサイン(からだ・心・暮らし)
- もう無理だと思った日に、今日できる3つのこと
- 家族以外に頼れる先と、施設という選択肢の考え方
- 気持ちが少し軽くなった、私自身の変化
「親の介護、もう無理」と思うのは、あなたが弱いからではありません
介護には、終わりが見えません。
どれだけ頑張っても、目に見える成果があるわけではありません。
そして、代わってくれる人も、そばにはいません。
その状態が毎日続けば、心が「もう無理」と声を上げるのは、自然なことだと思います。
それはあなたが弱いからではなく、心が限界の手前で信号を出してくれている状態なのだと、いまの私は思っています。
当時の私は、母の言葉に振り回されていました。
物盗られ妄想で「財布を返して」と責められ、いくら説明しても伝わりません。
母が動くたびに、次は何を言われるのだろうと身構えるようになっていました。
気づけば、自分の家の中に、自分の居場所がなくなっていました。
そして、これは長いあいだ誰にも言えなかったことです。
私は心の奥で、いまのような在宅での介護を、いつか終わりにしたいと思っていました。
この暮らしにも、どこかに区切りがあってほしいと願っていました。
でも同時に、そんなことを考えてはいけないのではないか、という罪悪感もありました。
母のことは大切です。
それなのに、いまの在宅介護を終わりにしたいと願ってしまう自分がいる。
その矛盾が、いちばん苦しかったように思います。
もしいま、あなたが同じことを思っているのなら、それは親を大切に思っていないからではありません。
それだけ長く、ひとりで背負ってこられたということなのだと思います。
私も「もう無理」と思って、家を飛び出した夜がありました
私が家を出たのは、ある同僚の話がきっかけでした。
同僚から、親とぶつかった日に、一晩だけ家を離れてビジネスホテルで過ごしたことがあると聞きました。
私には「家を離れる」という発想そのものがなかったので、その話はとても意外でした。
あのまま母のいる家にいることに、私は息苦しさを感じていました。
その日の夕方、私は仕事を終えると、着替えを詰めてホテルを予約しました。
本当は、母に気づかれないように、こっそり家を出るつもりでした。
けれど私の足音に気づいた母が、玄関まで出てきたのです。
荷物を持った私を見た母の、寂しそうな顔が忘れられません。
見つかってしまった、何と言おう。
そう焦りましたが、嘘も思いつきませんでした。
隠しても仕方がないと開き直って、私は素直な気持ちを口にしてしまいました。
母は「出ていくなら出ていっていいよ」と、険しい表情で言いました。
その夜、私が家を出たあと、母は私を探して外へ出ていました。
私が帰ってこないので警察へ行こうとして家を出たものの、途中で道に迷っていたそうです。
近所の方が見つけて、家まで連れて帰ってくださいました。
母を見つけてくださった近所の方から事情を聞いた息子が、あとから私に教えてくれました。
母の行方が分からなかったあいだ、私が願っていたのは、ただ一つでした。
どうか、母の身に何も起きないでほしい。
無事に見つかってほしい。
母が見つかったと連絡をもらい、私はホテルに戻りました。
けれど、ベッドに入っても、気持ちは晴れませんでした。
自分のことだけを考えて家を出てしまった。
とんでもないことをしてしまった。
母に申し訳ない。
何事もなくて、本当によかった。
そんな言葉が、頭の中をぐるぐると回っていました。
そして、もう一つ怖いことがありました。
明日、仕事から帰ったとき、母はどんな顔で私を迎えるのだろう。
もし母が私の家出を覚えていて、心を開いてくれなくなったらどうしよう。
そう考えると、眠れませんでした。
一晩、家を離れました。
それでも、私の気持ちは軽くなりませんでした。
私にとって、家を出ることは解決になりませんでした。
ただ、あの出来事から一つだけ、残ったものがあります。
自分の気持ちを誰かに伝えると、少しだけ心が軽くなる。
そのことに、私は初めて気づいたのです。
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このころの在宅介護がどんな日々だったのかは、在宅介護の限界を感じた私が、施設入所を選択肢として考えるまでの実体験に書いています。
ひとりで抱えないほうがいいサイン
「もう無理」と思っていても、自分がどれくらい消耗しているのかは、意外と自分では分からないものです。
私もそうでした。
厚生労働省が働く人向けに公開しているこころの耳というサイトでは、ストレスによる変化は「こころ」「体」「行動」の3つの面に現れるとされています。
こころの耳を参考にしながら、この記事では介護をしている方が気づきやすいよう「からだ」「心」「暮らし」に分けて見ていきます。
あてはまるものが増えてきたら、誰かに話してみるタイミングかもしれません。
からだに出るサイン
- 夜、眠れない。眠っても何度も目が覚める
- 食欲がない。または食べすぎてしまう
- もともとの持病が悪くなった
- 朝起きたときから、体が重い
- 頭痛や肩こりが続いている
心に出るサイン
- 理由もなく、急に涙が出る
- 前より怒りっぽくなった
- 好きだったことが、楽しめなくなった
- 親の顔を見るのがつらい
私自身、この中では「理由もなく、急に涙が出る」「母の顔を見るのがつらい」の2つが当てはまりました。
自分でも気持ちを抑えられず、急に涙が出ることがありました。
また、母のことが嫌いになったわけではないのに、顔を合わせると身構えてしまう自分もいました。
いま思えば、あのころは心がかなり消耗していたのだと思います。
暮らしに出るサイン
- 仕事に集中できない。ミスが増えた
- 友人や親戚と会わなくなった
- 自分の用事を、いつも後回しにしている
- 家の中に、ほっとできる場所がない
これらは、あてはまったからいけない、というものではありません。
自分の状態を知るための目安として見ていただけたらと思います。
なお「こころの耳」では、気分の落ち込みや不眠、意欲の低下などの症状が2週間以上続く場合は「うつ」が疑われるため、専門家(精神科・心療内科)に早めに相談することがすすめられています。
眠れない日やつらい気持ちが長く続くときは、我慢せずに医療機関に相談してみてください。
厚生労働省は市町村・地域包括支援センターによる家族介護者支援マニュアルというものを出しています。
その副題は「介護者本人の人生の支援」です。
相談していいのは、介護を受ける親のことだけではありません。
介護をしているあなた自身も支えられていい立場なのだと、この副題は教えてくれているように思います。

もう無理だと思った日に、今日できる3つのこと
ここからは、今日か明日にできることを3つだけお伝えします。
全部やらなくて大丈夫です。
できそうなものが一つあれば、それで十分だと思います。
①今日いちばんきついことを、ひとつだけ書き出す
介護の悩みは、いくつも重なっています。
だからこそ、全部をなんとかしようとすると、どこから手をつけていいか分からなくなります。
そこで、今日いちばんきついことを一つだけ、紙やスマホのメモに書き出してみてください。
夜眠れないことかもしれません。
同じ話を何度も聞くことかもしれません。
お風呂を嫌がられることかもしれません。
一つに絞ると、それが人に相談するときの材料になります。
「介護がつらいんです」と伝えるより、「夜に何度も起こされて眠れないんです」と伝えたほうが、相手も具体的な提案をしやすくなります。
②その気持ちを、誰かに聞いてもらう
これが、私がいちばんお伝えしたいことです。
いま振り返ると、あのころの私が本当に必要としていたのは、解決策ではありませんでした。
自分の気持ちを分かってもらうことだったのだと思います。
相談する相手は、専門の窓口でなくてもかまいません。
家族でもいいのです。
あの家出の夜、私は駅で娘と会いました。
娘は「いつでも話は聞くよ」と言ってくれました。
その言葉が、本当に嬉しかったのを覚えています。
それまでの私は、子どもたちの前では気丈にしていました。
心配をかけたくなかったからです。
でもあの日、母に対する自分の素直な気持ちを話すことができて、理解してもらえたように感じました。
いま当時の自分に声をかけられるなら、こう言いたいです。
家を飛び出す前に、子どもたちに自分のつらさを話しておけばよかった。
もちろん、家族には話しにくいという方もいらっしゃると思います。
その場合は、介護の専門職に話を聞いてもらう方法があります。
ケアマネジャーがついている方は、まずケアマネジャーへ。
まだ介護認定を受けていない方や、ケアマネジャーがいない方は、お住まいの地域包括支援センターが相談先になります。
どちらに、何をどう伝えればいいのかは、【体験談】介護で限界を感じたときの相談先|家族だけで抱え込まないためににまとめています。
①で書き出したメモを持っていくと、話しやすくなります。
③短い時間だけ、介護から離れてみる
私は一晩、家を離れました。
それでも、気持ちが楽になったわけではありません。
むしろ後悔と不安のほうが大きかったことは、先ほどお伝えしたとおりです。
ただ、短い時間だけ介護から離れて、気持ちを落ち着かせるという方法もあります。
私の場合、それは夜に少しだけ外を歩く時間でした。
夕食のあと、母が食器を洗っているあいだや、お風呂に入っているタイミングを見て、30分から40分ほど近所を歩くことがありました。
少しの時間でも介護から離れて一人になることで、気持ちを落ち着かせていました。
私の場合は外を歩く時間でしたが、別の部屋で少し休む、車の中で音楽を聴くなど、その人に合うやり方があると思います。
自分を責めずに、その時間をとってください。
頼れる先は、思っているより多いです
もう少し余裕が出てきたら、家族以外に頼る方法も知っておくと安心です。
すぐに使わなくてかまいません。
知っているだけで、気持ちが少し違ってきます。
介護保険のサービスを見直す
いま使っているサービスが、いまの状態に合っているとは限りません。
デイサービスの回数を増やす、ショートステイを使ってみるなど、見直せる部分があるかもしれません。
まずはケアマネジャーに相談してみてください。
家族以外の手を借りる
介護保険では対応できないことを頼めるサービスもあります。
たとえば、通院の付き添いや、家族の代わりの見守りなどです。
保険内のサービスと組み合わせて使う、という考え方です。
こんな方に向いています。
- 仕事を休んで通院に付き添うのがつらい方
- 数時間でいいので、誰かに任せたい時間がある方
くわしくは在宅介護は介護保険だけじゃ足りない?:保険外サービスとの賢い組み合わせ方にまとめています。
目を離せる時間をつくる
夜眠れない原因が「目を離すのが不安だから」であれば、見守りの道具を使うという方法もあります。
こんな方に向いています。
- 夜中に何度も起きて、親の様子を確認している方
- 離れて暮らす親の様子が分からず、不安な方
選び方は認知症の親の見守りは何を選べばいい?迷った私がたどり着いた選び方でお伝えしています。
施設という選択肢を「知っておく」だけでもいい
施設のことは、まだ考えたくないという方も多いと思います。
私もそうでした。
ケアマネジャーから施設入所の話が出たとき、私はすぐに決断できませんでした。
気持ちが追いつかなかったのです。
でも、知ることと、決めることは違います。
どんな施設があるのか、どんなときに考え始める人が多いのかを知っておくだけでも、心の準備は変わってきます。
私が「そろそろ考えるときかもしれない」と感じたきっかけは、親を施設に入れるタイミングはいつ?迷い続けた私が感じた5つのサインにまとめました。
いま決めなくて大丈夫です。
私の気持ちが変わったのは、この介護にも出口があると知ったときでした
最後に、私の気持ちがどう変わっていったのかをお話しさせてください。
話を聞いてもらうだけで、心が落ち着きました
実は私は、そのあとにもう一度、家を出ています。
ただ二度目は、ホテルではありませんでした。
向かった先は、ケアマネジャーの事務所です。
どうしても、話を聞いてほしかったのです。
いま振り返ると、あのとき私は「頼りたかった」というより、ただ話を聞いてほしかったのだと思います。
そして、心のどこかで背中を押してほしかったのだと思います。
そんなに頑張らなくてもいいんだよ、と言ってほしかったのです。
事務所を出たとき、状況は何も解決していませんでした。
それでも、行く前と帰り道とでは、気持ちがまるで違いました。
心が、少し落ち着いていました。
「いつかはこの道もある」と知って、少しゴールの光が見えました
その日、ケアマネジャーからはショートステイや施設入所の話が出ました。
私はその場では決断できませんでした。
ようやくデイサービスに通えるようになった母に、ショートステイをお願いする勇気も出ませんでした。
それでも、一つだけ変わったことがあります。
いつかは、この道もある。
そう思えたことです。
出口の見えないトンネルを歩いているように感じていた在宅介護の毎日に、少しだけ光が見えた気がしました。
進まなくてもいいのです。
出口があると知るだけで、いまの一日が少し違ってきます。
自分の中で線を引いたら、母に広い気持ちで接することができました
そのあと、私は自分の中で小さな決断をしました。
今度、母から泥棒扱いされたり、責めるような強い言葉を浴びせられたりしたら、そのときは施設入所を考える。
そう、心に決めたのです。
誰かに宣言したわけではありません。
紙に書いたわけでもありません。
ただ、自分の中に線を引いただけです。
不思議なもので、そう決めてから、私は母に対して冷静になれました。
いつもより広い気持ちで接している自分がいました。
いま振り返ると、そう決めることで、私はいまの在宅介護をいつまで続けるのか、その区切りを決めたかったのだと思います。
在宅での介護に区切りがないと思っていたころ、私はどこまでも苦しく感じていました。
でも、ここまで来たらこうする、と決めておくと、いまの一日を受け止めやすくなりました。

まとめ:ひとりで抱え込まなくて、いいんです
最後に、この記事でお伝えしたことをまとめます。
● 「もう無理」と思うのは、あなたが弱いからではありません
● 眠れない、涙が出る、親の顔を見るのがつらい。それは心が消耗しているサインです
● 今日できることは3つ。いちばんきついことを一つ書き出す、それを誰かに聞いてもらう、短い時間だけ離れる
● 家族以外に頼れる先もあります。すぐに使わなくても、知っているだけで気持ちは変わります
● 出口があると知るだけで、いまの一日は少し違ってきます
私は一晩家を出ましたが、それで楽になったわけではありませんでした。
本当に必要だったのは、気持ちを誰かに聞いてもらうことでした。
あのとき、私が言ってほしかった言葉があります。
一人で抱え込まなくていいよ。
その言葉をそのまま言われたわけではありませんが、私はそう言ってほしかったのだと思います。
それくらい、孤独でした。
だから、いま同じ場所にいるあなたに、私から言わせてください。
ひとりで抱え込まなくて、いいんです。
もし今日、何か一つだけできるとしたら。
話を聞いてもらえそうな人を、一人だけ思い浮かべてみてください。
ご家族でも、ケアマネジャーでも、地域包括支援センターでもかまいません。
今日すぐに連絡しなくても大丈夫です。
その一人を思い浮かべることが、いちばん最初の一歩になります。

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