介護生活の中で、私はこれまでに2回“家出”をしました。
今回は、その「初めての家出」のお話です。
当時(暗黒の時代)は本当に辛く苦しいものでしたが、今となっては不思議と懐かしさすら感じています。
もし今、同じように限界を感じている方がいたら──
この体験が少しでも、気持ちを整理するヒントになれば嬉しいです。
☁️その日、雲行きは朝から怪しかった
その日はリモートワークの日でした。週に2回は在宅勤務をしていた頃です。
朝ごはんを済ませたあと、母の雰囲気がなんだかおかしい…
嫌な予感は的中し、物盗られ妄想が始まりました。
「私の財布と通帳、返して!」
「なんでも取り上げてしまって!」
落ち着け私……怒っちゃだめだ。
「盗ってなんかないよ。お母さんがよく財布を忘れるから預かってるだけ。お金が必要なときはいつでも渡すからね」
そう、いつも通り、優しく、穏やかに説明します。
でも……聞く耳は持ってもらえません。
「これじゃ何の楽しみもない!自分で持っておきたいのに!」
正直、こんなこと言われてまで財布や通帳を預かりたくなんかない。
でも預けたら預けたで、「なくなった、盗られた」の繰り返し──。
ひどいときには一日3回も、「しまい忘れ→探す→私が犯人」このループ。
もう、精神的にヘトヘトでした。
🌀涙と仕事と、同僚とのやりとり
この日も朝から「財布がない」と騒ぎ出し、私が犯人扱いに。
最初は説明していましたが、もう無理だと感じて2階の部屋へ逃げ、リモート業務に入りました。
でも……パソコンを見つめるうちに、自然と涙が溢れてきて、文字が滲んで何も手につきません。
誰かに聞いてほしくて、同僚にチャットで愚痴をこぼしてしまいました。
同年代の女性が多い職場だったので、愚痴には共感してもらえます。
でも──やっぱり、介護のリアルな悩みまでは共有しきれない寂しさがありました。
そんな中、ある同僚がこんなことを話してくれたんです。
「私も母とよくケンカするよ。この間は腹の虫が収まらず、ビジネスホテルに一泊してきた」
その言葉に、ふと「私も……家出しようかな」と思ったのです。
🧳バッグひとつで飛び出して
母の顔を見るのも嫌で、昼食も取らずに空腹のまま仕事を続けていました。
1階から母の「〇〇ちゃ〜ん、ご飯食べんと?」の声が響いても、「食べたくない」と返事。
よし、もう決めた。
今日は顔を合わせたくない。ホテルに泊まろう。
仕事が終わったら一泊分の荷物を持って、出よう。
子どもたちには後でLINEで伝えればいい。
そうと決めたら、心は早かったです。
17時の終業後、着替えや翌日の出勤用の荷物を詰め、車で15分のビジネスホテルを予約。
玄関へ向かうと、気配を察知した母がやってきました。
「どうしたと?」と、きょとん顔の母に私は……
「お母さんともう顔合わせたくないけん、出ていくね」
と、言ってしまいました。
母は一瞬考えたあと、険しい顔でこう言いました。
「そうね。出ていくなら出ていっていいよ。私はこの家売ってアパートでも借りるから」
……今思えば、言い方、もうちょっと考えるべきでした。
でも、あの時のわたしは心の余裕なんてなくなってました。
🍝娘と夕飯、そして家にいない母
ホテルに向かう前に、娘と息子のグループLINEにメッセージ。
「お母さん、もう帰りません。おばあちゃんは家にいるから、後のことは頼んどくね」
すると、すぐに娘から連絡が。
「どうしたと?今どこにおると?
今、会社帰りの電車の中だからどこかで待ち合わせして話そう。」
娘と駅で待ち合わせ、近くのイタリアンで夕飯を食べました。
「話くらい、いつでも聞くよ」と言ってくれた娘の言葉に救われた気がします。
ところが、食事中に息子からLINE。
「今、家に帰ったら誰もおらん。おばあちゃんもいない。家の中真っ暗」
え……?母がいない!?
急いで息子に「近所を探して」と頼みました。
🚔近所の人に助けられて
夜7時半、外はもう真っ暗。
後悔の気持ちが押し寄せてきます。
「私が家出なんてしなければ……」
やっぱり私も娘と一緒に家に帰ろう、そして母を探さなくちゃ・・・と考えていたら
息子から連絡。
「おばあちゃんおったよ。近所のおじさんが一緒に連れて帰ってくれた」
どうやら、私を探して家を出て、交番に行こうとしていたところを近所の人が見つけてくれたようでした。
息子は「今日は母が用事があって帰ってこない」と説明してくれたそうです。
本当に、感謝しかありません。
🛏そして、ひとりホテルの夜
息子からの連絡でホッとしたものの、心の整理はまだつかず。
荷物もあるし、やっぱり今夜はホテルに泊まろう。
娘を駅まで送り、私はホテルへ戻りました。
シャワーを浴びても、全然「癒された〜」なんて気持ちにはなれず、ただただ静かにベッドに入りました。
🌅そして翌日、いつも通りの朝
翌朝、そのまま会社へ出勤し、夕方帰宅。
家には母ひとり。
おそるおそる「ただいま」と言うと……
「おかえり〜」
満面の笑みで出迎えてくれました。
昨日のことなんて、1ミリも覚えていない様子。
その笑顔に、私はちょっとだけ罪悪感を覚えつつ、また「いつもの日常」が始まりました。
🌸そして今、思うこと
みなさんは、「家出したい!」と思ったことはありませんか?
私は今でも、自分が本当に出て行ったことが信じられないくらいです。
でもあのときの私は母と2人っきりの家で息が詰まりそうで・・・
“逃げたい”というより、“少しだけ距離を置きたい”、そんな気持ちでした。
母は私が出ていった後、「迷子になったのかも・・・」と心配される存在だったのなのかもしれませんね(笑)
🧡家出をして、気づいたこともありました
あの夜、もうひとつ心に残っているのが、娘と息子のことです。
駅まで会いに来てくれた娘は、
「そんなに追い詰められてたって、気づかんでごめんね」と申し訳なさそうに言ってくれて──
その言葉が、うれしくて、ちょっと泣きそうになりました。
この出来事をきっかけに、少しずつですが娘には愚痴もこぼすようになり、
私にとって、心の支えになってくれる存在になっていきました。
そして息子はというと、
真っ暗な家に帰ってきて、誰もいないことに気づき、
おばあちゃん(母)を一生懸命探し回ってくれました。
「もう一度、近所を探してくる」と何度も連絡をくれて、
その姿に「頼りになるようになったなぁ」と、しみじみ思ったのを覚えています。
ほんの一晩の出来事でしたが、
家出をしたことで、私は子どもたちの成長や優しさに改めて気づくことができました。
そして──このときは、まさか2回目があるとは思ってもいませんでした。
え?また家出?──はい、しました(笑)
2回目は「プチ家出」です。
そのときのエピソードはこちらからどうぞ👇
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