親を施設に預けるという選択──
それは「安心」のためのはずなのに、私の心には罪悪感と喪失感が残りました。
母をサ高住に預けたあと、私の気持ちはどう変わっていったのか。
そして本当に「これでよかったのか」という迷いとどう向き合ったのか。
今回は、私自身の体験をもとに「施設入所後の気持ちの変化」について綴ります。
同じように迷いながら介護をしている方に、少しでも届けば嬉しいです。
🧺入所前日の準備と、当日のドタバタ
母が入所するにあたって、衣類やタオル、靴下など持ち物すべてに記名が必要でした。
それは前日までに何とか済ませたものの、生活用品の準備がまだ残っていました。
入所当日の午前中、私は近くのホームセンターに急いで買い出しへ。
トイレブラシ、バケツ、石けん、カーテン──
もっと早く準備しておけばよかったのに、
どうしても重い腰が上がらず、ギリギリの行動になってしまいました。
今思えば、それは私の心の状態そのもの。
母の入所が近づくにつれて、
「まだ時間がある」とどこかで思いたかったのかもしれません。
🍽最後の外食──3人だけの穏やかな時間
午後1時にケアマネさんが来る予定だったので、
その前に娘と私と母の3人で、近所の定食屋さんへ最後のお昼ごはんを食べに行きました。
母は天ぷら定食を完食し、帰りの車の中でこう言いました。
「美味しかったね」
そのときの満足げな笑顔が、今でも忘れられません。
でも私は運転しながら、心の中で思っていました。
「もう、こうして3人でごはんに行くこともなくなるのかな……」
悲しくて、切なくて、静かに流れる時間がとても愛おしく感じました。
🚗不安げな母と、車の中の会話
家に戻ると、ケアマネさんがすでに来ていて、
一度家に上がってもらい、母に「リハビリのために施設に行くんだよ」と伝えると、母は静かにうなずきました。
車に乗り込み、母は助手席に。
静かに外を見つめながら、ぽつりとこう言いました。
「どこに行くと?」
私はちょっと後ろめたい気持ちになりながら、できるだけ明るく答えました。
「ケアマネさんが案内してくれる、リハビリができるところだよ」
母はまた黙って、遠くを見つめていました。
家から車で10分ほどなのに、
なぜかとても遠くへ来たような気がしました。
🛏初めての部屋と、別れの瞬間
施設に着くと、ケアマネさんが母と話している間に、
ホーム長さんに案内されて、私たちは新しい部屋へ。
洋室で、窓際にベッドが置かれ、洗面所とトイレも付いた部屋でした。
布団を敷き、カーテンを取り付け、荷物を整えて──
何とか生活できる空間になりました。
母を迎えに行き、部屋へ連れていくと、
ケアマネさんが母の手を引いて窓際まで行くと、やさしく声をかけました。
「今日からこのお部屋でしばらく過ごすことになりますよ。見晴らしがいいですね」
そして、静かにこう告げました。
「そろそろ、私も娘さんたちも帰りますね」
母は少し驚いたように、「え?帰ると?」と尋ねましたが、
すぐに「うん、じゃあね」と言って、ホーム長さんと一緒に手を振って見送ってくれました。
その時の私は、母が「やっぱり帰る」と言い出すんじゃないか・・・と内心ドキドキでした。
無邪気に手を振る母の表情が、今でも心に焼き付いています。
🕯帰宅後、心に空いた“ぽっかりとした穴”
さみしくて、切なくて、
なんとも言えない喪失感で胸がいっぱいになりました。
あんなに望んでいたことだったのに、
安心することはできませんでした。
その夜も、翌朝も、さらに次の日も……
母の手を振る姿が頭から離れず、
ぽっかり空いた穴を埋めることもできないまま日々が過ぎていきました。
📺入所翌日、テレビを届けに行った日
翌日、私は母の部屋にテレビを設置しに施設を訪れました。
母は1階のデイサービスにいて、ガラス越しに見えたその姿は、
まだ緊張していて、周囲に馴染めていないように見えました。
私は気づかれないように3階の部屋へ行き、
テレビを設置し、ホーム長さんと今後のことや不足品について話をして帰りました。
「テレビがあれば、少しはさみしくないかな…」
そんなふうに思いながら。
🕰1ヶ月間、母のことばかり考えていた
それから1ヶ月くらいのあいだ、私はずっと母のことばかり考えていました。
- もう施設に馴染んだかな?
- 夜はちゃんと眠れているかな?
- デイサービスで友だちはできたかな?
まるで、我が子を保育園に預けたばかりの親のような気持ちでした(笑)
買い物に行くと、母が好きだった食べ物ばかりに目が行きます。
「これ、好きだったよな」
「今度面会のときに持っていこうかな…」
🍀ようやく訪れた小さな変化
1ヶ月を過ぎたころ、少しずつ自分の時間を自分のために過ごすことができるようになりました。
それでも、頭の中にはいつも母の存在がありました。
特に土日はデイサービスがないので、母がさみしくないように私は姉と交代で母の面会に行き、
時には外出してお昼ごはんを食べたりすることで、
母との新しい距離感にも少しずつ慣れていきました。
帰り際、母は少し寂しそうな表情を見せることはあっても、「帰りたい」と口にすることはありませんでした。
🚪夜の出来事を聞いて、また心が痛んだ
ある日、ホーム長さんからこんな話を聞きました。
「夜になると、お母さまが部屋から出ようとされるので、
安全のために外から鍵をかけて対応しています」
それを聞いたとき、胸がギュッと締めつけられるような思いがしました。
「母は、鍵をかけられた部屋で不安じゃないかな…」
仕方ないと分かっていても、切なさや悲しさが込み上げてきました。
💭そして心の中でずっとくすぶっていたこと
母は本当は、ずっとこの家で暮らしていたかったはず。
それなのに私は、母の人生を変えてしまったんじゃないか…。
「本当に、これでよかったのかな」
「私の安心のために、母の自由を奪ってしまったかも…」
そんな葛藤が、ずっと心の中にありました。
📞そして訪れた転機──グループホームからの連絡
そんなある日、思いがけず第一希望だったグループホームから空きの連絡が入りました。
突然の連絡に驚き、悩みましたが、私は決断しました。
「やっぱり、グループホームに移ろう」
サ高住での2ヶ月は、母にとっても私にとっても、
安心を探すための時間だったのかもしれません。
✨次回予告
施設選びに正解なんてない。
でも、母との関係を見つめ直すことで、
少しずつ“安心”が見えてきた気がします。👉次回は、「やっと見つけた母の居場所──グループホームに移ってからの私の気持ち」
グループホームに移ってからの母の様子と、
私自身の心の変化について綴ります。
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